医学博士/脳神経外科専門医・指導医
日本頭痛学会・脳卒中学会・脳血管内治療学会・日本臨床高気圧酸素学会など多くの学会の専門医・指導医を持つ。
妻と息子が片頭痛持ちであったことから頭痛診療を学び、板橋中央総合病院で頭痛外来を開設。片頭痛予防のCGRP関連薬剤は区西北部医療圏で1番の使用経験を持つ。2023年9月に3つの診療科が協力して頭痛診療をするお茶の水頭痛めまいクリニックを開設予定。
今回は2023年9月にお茶の水頭痛めまいクリニックを開業される、板橋中央総合病院脳神経外科医長の片桐先生より頭痛の注射予防について詳しく教えていただきます。
天気と片頭痛の関係については、個人差がありますが、一般的に気温や気圧が急激に変化すると、片頭痛持ちの方の症状が悪くなることがあります。低気圧や前線の通過、気圧の急激な下降、また上昇によっても引き起こされます。気圧が下がると体の外からの圧力が減り、血管が膨張することや、天気の崩れが内耳のセンサーを介して交感神経を興奮させることが関係すると言われています。
ベルシステム24、頭痛ーるのユーザデータを用いて天気と頭痛発生に関する共同研究の論文を発表
片頭痛のメカニズムは残念ながら、まだはっきりと確定していません。
しかし、近年の研究ではカルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptide:CGRP)という物質の血中濃度が片頭痛を起こしている最中に高くなることや、この物質を片頭痛の患者さんに投与すると片頭痛が誘発されることがわかり、片頭痛はCGRPが関与して痛みを起こしていることが明らかになりました。
片頭痛治療は大きく分けて急性期に痛みを和らげる急性期治療と片頭痛をできるだけ起こさないようにする予防治療に分けられます。今までの片頭痛治療は、痛くなり始めたら飲むトリプタン製剤が中心でした。薬の飲み遅れで効かなかったり、トリプタン製剤そのものの効果が弱い方など、まだまだ頭痛に振り回される生活でした。
片頭痛に対する予防注射は、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)関連薬剤が2021年から日本でも保険適応となりました。天気の変化で悪くなる片頭痛も使用基準を満たせば、もちろん保険適応で治療することができます。
<商品名>
●エムガルティ
●アジョビ
●アイモビーク
エムガルティ | アジョビ | アイモビーク |
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2021年4月発売 |
2021年8月発売 |
2021年8月発売 |
皮下注射を初回2本、 その後1か月間隔1本ずつ |
皮下注射を4週間隔1本ずつ、 または12週間隔3本ずつ |
皮下注射を4週間隔1本ずつ |
※CGRP関連製剤の使用基準
CGRP関連製剤の使用基準ですが、以下の厚生労働省の最適使用推進ガイドラインを満たす必要があります。
・片頭痛の発作が月に複数回以上で出ていることを医師が確認していること。
・片頭痛が過去 3ヶ月以上にわたり、平均して1ヶ月に4回以上起きている。
・従来の片頭痛予防薬の効果は不十分、または副作用により継続が困難である。
・生活面の改善や片頭痛発作の治療をすでに行なっているが、それでも日常生活に支障がある。
急性期治療と予防治療は同時進行です。頭痛の痛みを取りながら予防内服や注射薬で予防を進め、最終的には予防により「頭痛に振り回されない生活」を目指していきます。頭痛外来ではその方の頭痛の性質や生活の背景により、それぞれのゴールを設定して、CGRP関連製剤とその他の治療を使い分けていきます。
気圧変化などで片頭痛が起こるタイプの方は、一年の中でも片頭痛が悪くなる時と、それほど起こらない時期があるかもしれません。例えば、梅雨の時期や、1月から2月にかけての雪をもたらす低気圧などは片頭痛が悪くなると訴えて外来にいらっしゃる方も多いです。ご自身の頭痛がどの季節にどんな気候で悪くなるかを把握しておくと、片頭痛予防の注射をその時期にあわせて少し前から使用開始することが可能です。「頭痛ーる」を活用してご自身の片頭痛の特徴をつかんでみましょう。