女性に多いと言われる頭痛持ち。特に片頭痛は有病率の男女差を見ても、男性より女性の方が3.6倍多く、比較的女性に多い疾患と言えるでしょう。30代の女性では5人に1人が片頭痛持ちともいわれています。
出典:Sakai F, & Igarashi H, Cephalalgia 1997
早いと10代の頃から発症しているケースもあり、婦人科で拝見していると、10代の若年時からひどい片頭痛がある方は、月経(生理)痛や※1起立性調節障害などの他の不調も同時に出ているパターンが多く見受けられます。
(※1 起立性調節障害:自律神経系の異常で循環器系の調節がうまくいかなくなる疾患。だるさやめまい、頭痛などで起きられないなどの症状)
片頭痛の増悪因子としては、ストレスや過労、睡眠不足などのがあげられていますが、女性の場合は月経(生理)周期にともなって症状が悪化する方もいます。
これは、頭痛と女性ホルモンの1つであるエストロゲン(卵胞ホルモン)が関連しているからです。
このホルモンの濃度が「下がる」時に片頭痛が引き起こされやすくなります。おそらくは、エストロゲンの「血管の壁」への作用が関与していると思われますが、詳しいメカニズムは分かっていません。
エストロゲンは月経(生理)周期の中で、「いったん上がり、下がる」時期が2回あります。
1回目が排卵の時期。2回目が月経(生理)直前から月経(生理)初日にかけてです。
この2つの時期には、エストロゲンが「下がる」という現象が起きるので、その時期に一致して片頭痛が起きやすくなるのです。
月経(生理)周期と伴って頭痛が出ていると感じたら、まずは基礎体温の記録と、周期と頭痛の時期の連動性を確認してみるとよいでしょう。
比較的女性に頭痛が多い理由として、片頭痛以外にも月経(生理)周期と連動して頭痛が出やすいことが挙げられます。
月経(生理)周期と連動して出現する頭痛は、主に3種類あります。
の3パターンです。
いずれか1つだけとは限らず、片頭痛と月経困難症や月経前症候群が混在することもあります。
月経困難症は、月経(生理)中に下腹部痛や腰痛などが出現して日常生活に支障が出る病気ですが、腹痛だけでなく頭痛・吐き気・嘔吐・下痢などの随伴症状が出る場合があります。
月経困難症による頭痛の場合は、月経(生理)中だけに頭痛が起きて他の時期には症状がみられません。
主に、子宮内膜がはがれる時に多量に分泌されるプロスタグランジンという痛みの伝達物質が悪さをして痛みを引き起こします。
プロスタグランジンは、痛みを伝えるだけでなく、血管や腸の壁の筋肉にも作用してしまうため、血行が悪くなったり、腸の動きが過剰になったりして、立ちくらみ・吐き気・下痢・頭痛などの症状を引き起こします。
月経前症候群は、排卵後から月経(生理)直前までの時期に頭痛・腹痛・めまい・むくみ・イライラ・抑うつ・過食などの様々な症状が出現します。
この時期だけに頭痛が起きていたり、頭痛以外にもむくみや吐き気などの症状があり、月経(生理)開始とともに楽になる場合は月経(生理)前症候群の可能性が考えられます。
月経前症候群の原因ははっきりと解明されていませんが、排卵後に多量に分泌されるプロゲステロン(黄体ホルモン)が症状を引き起こしているのではないかと言われています。
片頭痛の月経周期増悪は、前述の通り主にエストロゲン(卵胞ホルモン)という女性ホルモンの影響を受けて出現します。
片頭痛の場合は、月経(生理)周期だけではなく、気圧の変動や心身の疲労状態にもよって症状が増悪しますので、必ずしも月経(生理)周期ときれいに連動しない場合もあります。
頭痛がどのパターンで出現しているのか、月経周期との連動性があるのかは、基礎体温と一緒に頭痛やそのほかの心身の状態を記録してみると明らかになります。
頭痛に対する対処法は、月経(生理)周期のどの時期に起きているのかと、ベースが筋緊張型頭痛なのか片頭痛なのかによって異なってきます。
自分の頭痛が片頭痛なのか筋緊張型頭痛なのかよくわからない場合や、頭痛の程度がひどく市販の痛み止めも効かない場合は、まずは脳外科または頭痛専門外来で頭痛の鑑別診断を受けることをお勧めします。
特に、頭痛の程度がひどい・めまいや吐き気を伴う・目の見えにくさや異臭を伴う、といった場合、脳の器質的な疾患が隠れている場合もあります。片頭痛の月経(生理)前増悪だと思ったら、脳腫瘍だったというケースもありますので、頭痛以外の症状も伴う場合は1度は脳外科で詳しい検査を受けた方がいいでしょう。
月経(生理)周期と連動した頭痛の場合は、ピルを服用することで症状が軽減する場合があります。ピルは排卵を抑えることでホルモンの波をフラットな状態に保ってくれますので、エストロゲン(卵胞ホルモン)が「下がる」ことがほとんどなくなります。
前兆を伴う片頭痛の場合はピルが飲めませんが、ピルの禁忌事項に当てはまっていなければ試してみるとよいでしょう。
ピル以外の頭痛の治療法としては、漢方薬や筋肉をほぐす薬をつかったり、普通の鎮痛剤での対症療法になります。ひどい片頭痛の場合は、頭痛専門外来で予防薬の処方を受けたり、片頭痛に有効な漢方を予防的に服用してみるとよいでしょう。
月に10日以上、頭痛に対して痛み止めを使っている場合、薬物乱用性の頭痛を引き起こしてしまう可能性もあります。痛くて痛み止めを使うと余計に頭痛が起きるという悪循環になりますので、自己判断で市販薬を使わず有効な薬を処方してもらった方がベターです。
女性に起きやすい頭痛は、毎月のホルモンの変動だけでなく、ライフサイクルの中で起こるホルモンの変動によっても引き起こされやすくなります。
ライフサイクルの中で、ホルモンが大きく変動するのが妊娠した時と出産直後、そして更年期です。
妊娠初期には、急激に多量の女性ホルモンにさらされますので、頭痛が起きやすくなります。妊娠中は、使用できる鎮痛剤が限られてきますので、漢方などで代用する必要があります。
出産直後は、今度はホルモンが急激に下がるため、それに伴う不調が出ることがあります。また、産後の授乳期は抱っこや授乳時の首・肩への負担によって筋肉のコリが起きやすくなります。授乳期は薬を控えがちですが、一般的な頭痛薬は飲んでも問題ありません。
また、首や肩の体操をしたり、目をできるだけ使わないようにすることである程度、筋肉の緊張を緩和できますので、助産師さんに対処法を相談してみるのもお勧めです。
一口に「頭痛」と言っても原因はいろいろあり、対処法も異なってきます。痛み止めを飲む回数が増えてきたなと思ったら、頭痛専門外来や婦人科で相談してみることをお勧めします。