【世界が注目】気象病は迷信じゃなかった! 頭痛ーる論文が「たくさん引用されたで賞」を受賞!
勝木将人先生(長岡技術科学大学 准教授) (右) 島津智一先生(埼玉精神神経センター 脳神経内科医)(左)
頭痛ーる共同研究チームが「アメリカ頭痛学会」に発表した研究論文(スマートフォンアプリと人工知能を用いた天候が頭痛発生に及ぼす影響の検討)をご存じでしょうか?
この論文は、たくさん引用された論文に贈られる『Top Cited Article 2022-2023』を受賞いたしました。その内容は世界中で注目され、社会的に大きな意義を持つことになりました。
今回は、共同研究チームの勝木将人先生をお招きし、研究秘話をたっぷりと伺いました!
世界を少し動かすことができた論文
ーー改めて、この度の研究論文の内容をお話しいただいてもよろしいでしょうか?
ひと言でいうと、天気の変化と頭痛の発生の関連性を科学的に証明したという内容です。
天気痛とか気象病とか片頭痛といった天気の変化で体調を崩していた人たちは、今まで仮病と言われ苦しい思いをしていました。しかし、この研究により頭痛をはじめとする気象病が世界的に病気であると認識され、医療的に介入できると理解されることが期待されています。
また、『Top Cited Article 2022-2023』という賞を受賞することができました。これまで迷信と思われていた気象病に一石を投じたことができ、世界を少し動かすことができたのではないかと嬉しく思います。
※勝木先生の国際神経学会での論文発表風景
きっかけは、自身の頭痛経験から
ーー今回の研究論文はどのような経緯で始められたのでしょうか?
天気が悪いと、頭痛を含め体調が悪くなることは、経験的に患者さんも医療関係者もわかっていました。しかし、それを医学的に証明した論文は少なく、一部の医療関係者の中には「気のせいじゃないか」と気象病を否定する意見もありました。
頭痛持ちである自分としては、頭痛持ちじゃない人から「何を言っているの?」と理解されないのが辛いし、科学者としても納得できないので、しっかりと証明したかったという想いがありました。
また、自分も含め天気が悪いと頭が痛くなるということに対して、理解が得られない人たちを助けたいという想いもありました。この2つの想いが研究に取り組むきっかけになったと思います。
ーー今回の研究には、「頭痛ーる」ユーザーが日々記録している痛みデータを活用しています。
片頭痛らしいと思われるユーザーかつ1年以上アプリを利用している4375名の1年分のビックデータ( 30万件の頭痛記録)を用いて天気との関連を調査した結果、天気の変化と頭痛の発生に相関があったというのが今回の研究内容になります。
10人くらいの数が少ない患者を集めた研究はこれまでも多くありましたが、ビックデータで示すことができた点が、医学的に評価されました。
動物実験のような、均質な集団を用いた研究では、サンプル数が少なくても十分研究になります。しかし、ヒトの場合は住んでいるところや、生活様式や、今までの病気や、飲んでいる薬など、多くの因子が複雑に影響し合うため、天気と頭痛発生の医学的関係性を統計的に推し量るためには、たくさんのサンプルが必要になります。病院で何千人という患者さんを集めるとなると果てしない年月とお金がかかりますが、「頭痛―る」はすでにユーザー数が多く、貴重なビッグデータを得ることができました。
また、もう1 つ評価されたのは、カルテの診療データではなく、スマホアプリという民間データを用いて解析したという点です。医学研究の世界ではかつてない研究方法が評価されました。
世界中でみんななんとなく気づいていた事象が「気象病」です。
しかし、それを示す方法がなかなかありませんでした。スマートフォンアプリを用いることで、場所の違いや、施設の違いなどを取り払った日本全体のビッグデータを、マクロな視点で解析し、天気と頭痛が関連することを示したことはとても大きな意義があると思います。このような大きなサンプル数で検討した論文は頭痛に限らずまだまだ医学の世界では少ないのです。
医学界の反応は?
ーー今回の論文を発表してみて、周りの反響はいかがでしたか?
研究者としては、アプリのデータを用いて科学的事象を証明したという方法について驚きや称賛の声をいただきました。
患者さんを直接診察したデータではなく、民間のアプリのビックデータを用いて科学的に証明するという方法が、「今どきだね」「最先端のやり方だね」という声がたくさん届きました。
国際頭痛学会や国際神経学会など、海外での発表では、世界中の先生からいろいろな質問をされ、国や地域にかかわらず、気象病という事象にみんな興味持ってるんだなと感じています。
ーー日本と海外で気象病の違いはありますか?
やはり地域性はあると思っています。
海外では治療していくと、薬が効いて良くなったりしますが、日本の場合は、先月まですごく体調が良かったとしても、今月は状態が悪くなっていることがよくあります。
なぜなら、日本は島国で四季があり、1日ごとに天気が目まぐるしく変わる国だからです。気象病が起きうる国は他にもあるとは思いますが、そんなに天気が大きく変わらない国も多いのではないでしょうか。
海外の先生と話をした際に、日本以外でも天気で頭痛が起きる患者を診療する先生はたくさんいらっしゃり、そういう患者さんたちにも役立つのではというコメントをたくさんもらいました。
ーー論文発表後の医療現場での変化はありましたか?
患者さんが、この論文の記事を見つけてくれたみたいで、「天気で体調が悪くなるということを勝木先生がおっしゃってくれたので、会社で論文の内容を説明したら周りが理解してくれました。」と感謝の言葉をもらいました。
また、患者さん本人ではなくて、上司の方がその記事をたまたま見つけて、「天気が悪いと頭が痛いって悩んでいる事務の社員がいるんだけど、ちょっと診てもらえますか。」と部下を連れて来たことがありました。これは結構すごいことだなと思いました。
頭痛の記録を付けることの大切さ
ーー痛みの記録や薬の記録を付けると、患者さんにとってどのようなメリットがあるのでしょうか?
記録をつけることは、もちろん治療効果の判定に役立ちます。それ以上に、患者さん自身が片頭痛という病気と付き合っていくんだ、自分でこの病気と向き合うんだ、という気持ちを起こさせることが治療においては非常に大切だと思います。
頭痛の記録はいつ頭痛がしたかや頭痛の回数を把握できていない患者さんにまず始めていただいています。そのような患者さんに対して、まずは頭痛の回数を数えるだけでも行ってみましょうとお話しています。頭痛の回数を数えるだけでも患者さんにとっては自分の頭痛の状態を知るための大きな一歩になるためです。
次に、頭痛には色々なタイプがあることや違いがあることを理解していただきます。
最後に、頭痛の原因を考えてもらいます。これを一緒に医師が指導していったり、患者さんに考えてもらうことで、自然と頭痛に対するリテラシーが高まっていく、ということが大切です。
患者さんが自分の体調を見直して、自分の生活を改めることにつなげることが治療を進める上で最も重要なポイントになります。
ーー診療に記録データを持ってきてもらうと、医師としては何に役立つのでしょうか?
治療効果の判定として頭痛の質や痛み止めを飲んだ回数の確認ができます。また、一緒に原因を考えることで、患者さんの生活を適切にしていただくための認知行動療法にも役に立ちます。
記録に関しては、頭痛が普段の生活に困らない程度になるまでは続けた方が良いと考えています。月に1回程度であれば、記録をつけなくても、こんな日は頭痛が起きやすいとご自身でわかるようになってくると思います。
頭痛記録から見える症状の捉え方
ーー痛みの記録回数が減ると、頭痛が良くなっていると判断できるのでしょうか?
基本的に、1ヶ月あたりの頭痛日数や痛み止めの回数をみて判断しています。それだけでなく、日々の生活にどれだけ支障があるかを数値化する頭痛の評価指標(HIT-6)も使用して判断しています。
一般論として、30-40代が片頭痛のピークで、50代から自然に症状が落ちついてきます。しかし、60代になっても痛いとなかなか厳しい状態です。完治ということではなく、落ち着いている状態をなるべく長い時間続けられるようにすることが頭痛の治療になります。
また、片頭痛は進行性の疾患ともいわれはじめ、あまり放置してしまうと、脳の片頭痛を起こす場所が敏感になっていき、ちょっとしたことで片頭痛が起きるようになってしまいます。このため、進行して脳が敏感になっていかないように、予防治療を行って頭痛の日数を減らすことが大切です。
ーー薬の飲みすぎの目安ですが、月に何回、週に何回とかありますでしょうか?
月2回以上の片頭痛で予防治療の適応になります。また、月3回以上片頭痛があると慢性化しやすい事もわかっています。その月の頭痛の発生回数が予防治療を考える日数です。
薬物乱用頭痛という意味では、月に10日以上痛み止めを飲んでいる状態とざっくり覚えていただければ良いので、だいたい週に2日痛み止めを飲んでいるようでしたら、危険だと思っていただければよいかと思います。
予防治療は痛み止めではなく、痛みが月に1回程度の出現頻度になるようにコントロールします。
「頭痛ーる」では日々の記録データをもとに痛みの傾向のAI判定ができます。
頭痛の通院や治療方法について
ーー少しでも頭痛で悩んでいたら病院に行くべきでしょうか?
頭痛に悩んでいる経験があればぜひ病院に来てください。
月に1回の頭痛でも痛み止めで効果がないという経験があれば、痛み止めよりも効果のある専用のトリプタンやラスミジタンという急性期治療薬で治療することができます。また、痛みの発生回数を少なくする予防治療についても飲み薬や注射などで対応することができます。
ーー頭痛に悩まされている方は、何科を受診するとよいでしょうか?
一般的には脳神経内科や脳神経外科で対応しています。また、頭痛専門の頭痛外来を開設している病院もあります。日本頭痛学会のページには頭痛を専門とした資格を持っている頭痛専門医の一覧が確認できますので参考になると思います。
ーークリニック、総合病院、どちらの方がよいなどありますでしょうか?
総合病院よりもクリニックの方が診察を受けやすいので良いと思います。総合病院でも専門の頭痛外来を開設している病院であればそちらでも構わないと思います。
ーー実際に通院すると、どのような治療を受けられるのでしょうか?
頭痛の治療方法には大きく3つあります。頭痛ダイアリーを一緒に見ながら生活を指導する「認知行動療法」、痛みの発作が発生した際に痛みを止める治療をする「急性期治療」、痛みを発生しにくくする治療の「予防治療」があります。病院ではこれらを用いた治療が行われます。
「頭痛―る」に今後期待すること
ーー先生が今後、「頭痛―る」に期待することはなんでしょうか?
「頭痛ーる」に期待することはアプリの海外進出ですね。国際神経学会で発表した際に、「このアプリを使いたいけれど海外では使えないの?」と多くの人に声をかけられました。是非とも海外の患者さんも利用できるようにしていただきたいと思います。
また、「最近記録がないけど調子いいのかな?」とか「昨日気圧が下がりましたが、頭痛はありませんでしたか? もし頭痛がなかったら今回はうまく乗り切れましたね」とアプリ内でお知らせして、記録をさぼらないように促したり、ユーザーに考える意識を持ってもらえるようになるといいですね。記録やアラートだけでなく、記録を付けた際にアドバイスやコメントをしてくれる機能があると行動変容につながるので良いのではと思います。
勝木先生の今後の展望
ーー医学博士になり、長岡技術科学大学の准教授にもご就任されました。来年からはアイルランドの大学に研究に行かれると伺っています。今後の活動の展望などお聞かせいただけないでしょうか。
片頭痛はまだ10%の人しか治療が行われていないと言われています。治療を行っていない残りの90%の人が、病院を受診するという気持ちになり、医療関係者も正確に診療できるような世界になることが大切です。そのために、アプリやAIを活用したり、オンライン診療を利用して頭痛の啓発や治療へのアクセスの向上に今後も取り組んでいきます。
EUの奨学金を利用してアイルランドで頭痛や医療AIについて研究していきます。EUで採用されたのも今回の論文のおかげだと思っています。ありがとうございました。
頭痛ーる編集部より
今回の勝木先生へのインタビューでは、論文発表による医療現場の反応や世界の医師の反応について、通院や治療に関することや治療における記録の大切さなど様々なことをお聞きすることができました。
通院や治療、記録の大切さについては皆さんの参考になったのではないでしょうか。「頭痛ーる」はこれからも皆さんの生活が少しでもやわらぐきっかけになれるようサービスの充実に取り組んで行きます。引き続き「頭痛ーる」をよろしくお願いいたします。
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勝木将人
長岡技術科学大学 准教授 医学博士
諏訪赤十字病院・三之町病院 脳神経外科 頭痛外来
燕三条すごろ脳脊髄クリニック オンライン診療部門
日本頭痛学会、日本脳神経外科学会、日本メディカルAI学会などに所属。
日本の経済復興のため、頭痛啓発運動や頭痛診療に役立つAI開発などを行っている。
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